ロードサイドという立地の盛衰について 【考察1 ファーストフード】
マクドナルドは日本最大の店舗数を誇るファーストフードチェーンであり、このブランドの成長率が、ファーストフードというカテゴリーの成長率に影響を与える。マクドナルドが中国産ナゲットの問題で、売り上げが大幅に落ち込んだ一年の間、マクドナルドが減らした売り上げを競合他社が拾い集めたかといえば、そうでもないのだ。マクドナルドが売り上げを前年から300億円以上落とした時に、ファーストフード大手の増収を合計してもせいぜい100−150億円ほど。
要はマクドナルドのなくした売り上げは蒸発して外食業界には残らなかったということだ。そして、マクドナルドが売り上げを回復して、事件前の水準にまで戻ると、何のことはない、ファーストフード他社は売り上げをどっと落とし、これまたマクドナルドの事故前の水準に逆戻りしただけ。これは見通しが甘いの一言で済ませられるものではない。
マクドナルドの売上回復の対策についてはまた別の機会に触れるとして、なぜファーストフード他社がマクドナルドの失策に対し、もっと有効な手を打てなかったのかということだ。その要因の一つが、ロードサイドマーケット(郊外型レストラン)の立地の変質にある。
マクドナルドは東京を中心とする首都圏において、駅前に必ずあると言ってよい店だ。マクドナルドがない駅というのは、よっぽど人が住んでいない場所だという意味にもなる。大きな駅では駅の両側、例えば西口と東口のように線路を隔ててどちらに行っても店がある。新宿や池袋、上野といったターミナル駅では5店、6店と複数店あることも多い。
駅前のマクドナルドは食事時以外でもいつでも混雑している立地であるのだが、軽食以外に喫茶という需要も取り込んでいるのがマクドナルドの強みなのだ。
ところが、マクドナルドの店舗数の半分は、そうした繁華街や駅前ではなくロードサイドにある。郊外型の一軒家店舗、お店で食べるイートインではなく持ち帰りテイクアウトに焦点を合わせた店だ。
郊外型店舗の特徴だが、
売り上げの5割近くが、テイクアウトとドライブスルー利用である。
だから、客席は少なくて良い。
だから、店は小ぶりになる。
ドライブスルーが機能すると実は駐車台数も減らせる。
当初マクドナルドが展開した郊外型の店は客席数が100席を超える大型展だった。
それが今では面積が半分程度の小型店が展開主力となっている。
郊外型の立地について、もう少し考えてみる。郊外型のファミリーレストランは、客席数が100席前後の店が多い。これは卓数で言うと25−30卓になる。
週末の忙しい、満席になるようなピーク時間では、一台の車でやってきた家族連れ客が利用する場合、一台の車(4人?)=1卓占有 → 卓数=駐車場と考えれば良い。(実際には何台分かの予備の台数が必要だ)
ところが、ファミリーレストランの平日利用は、一人で運転してきた主婦が3−4人集まりランチをする。1卓あたり4台占有であったり、営業車に乗っているサラリーマンが一人でランチを食べると一卓=一台=一人と卓効率の悪い状況も起こる。
平日では、満席・卓数=駐車台数の式が当てはまらなくなる。
この場合、卓数×1.5倍程度の駐車台数が必要となる。敷地面積の増大要因である。
平日の駐車場台数について別の計算をしてみる。客席の稼働率は概ね70%程度なので、稼働卓数は30卓×70%=21卓。そして1卓に2−3名がくるとすると、必要駐車台数は、21卓×2.5台=53台となる。これは郊外と言っても相当遠い郊外での話になる。車が一家に一台ではなく、一人に一台必要な地域の話だ。
ファミリーレストランの敷地が広くなる理由の一つがこれだ。田舎に行けば行くほど広さが必要になる。首都圏、東京近郊では主婦の自転車利用も意外と多いので、駐車場台数が少なくても良い立地・場所がある。首都圏で小型店舗実験などと言われるのは、こうした背景商圏が住宅地であり、徒歩・自転車来店が期待できる場所だ。日本全体でみると極めて例外的立地なのだが、人口密集地の首都圏では意外と「徒歩自転車商圏」が多い。
ところが、同じ郊外型立地でも売り上げの半分がテイクアウトになるマクドナルドのようなファーストフードでは、当然ながら客席数も半分(建築投資が下がる)、駐車場台数も半分(家賃も下がる、小さい敷地で店が出せる)と美味しいことずくめになる。
もともと大店法の影響と自動車の下駄化による交通動線が変わったことから、商業施設が郊外に移転した。そして、それに伴い郊外型という立地を開発したのがファミリーレストランであり、その効率化を進めた外食コンセプトがファーストフードということもできる。
テイクアウトの商売の美味しいところは、高単価が期待できることだ。ファミリーレストランでランチを食べるとして、一人が3人前、4人前と食べることは極めて珍しい。単価を上げるには、せいぜいドリンクやデザートといったメインではない商品を推奨するくらいしかない。ところがテイクアウトは、当たり前のことだが、3人前とか5人前とか買っていく客が相当な割合でいる。だからと言って一人前の値段が半分になるのかというと、それはないのが普通だ。5人前であれば、1人前の5倍の価格が支払われる。
だからテイクアウトの比率が高くなると、ファーストフードは実に効率の良い商売ができる。外食から物販への変容である。外食であるのに客席サービスをないがしろにしがちなのは、ここに原因がある。
もともと、駅前や繁華街の人通りの多いところで客席を高速回転させて売り上げ効率を上げるというのがファーストフードの原点だ。提供スピードを速くして、さっさと食べてさっさと帰ってもらう、これがビジネスの基本でありベースコンセプトだった。
ところが知名度が上がり、人通りのない郊外の幹線道路がテイクアウトを生み出す立地へと変化したこと。これがファーストフードを全国に押し拡げる重要な要因となった。
繁華街のように人が集まっていなくても商売になる。売り手であるファーストフード側にも、効率よく儲けることができる立地が増えたと色気を出す原因になった。
マクドナルドやケンタッキーキーフライドチキン、ミスタードーナツ、モスバーガー、吉野家、ほか弁なども含めたファーストフード、1000店越えチェーンの出店推進力が「郊外型店舗」だった。
しかし、1980年代後半から全国に広がった郊外型店舗の寿命は、実は20年ほどしかなかった。立地の陳腐化と一言で片付けられる現象ではある。ただ、それがわかったのは、1990年代、郊外進出最初期の郊外型店舗の急激な売上減衰が明らかになった頃である。
外食各社は、郊外型立地の陳腐化対策として、出店重点を当時規制緩和により大量出店が始まった大型ショッピングモールへの展開に切り替える。特にフードコートへの出店は投資の軽減効果もあり、急速に進む。しかし、このフードコート出店がブランド価値の低下を招く事態にもなった。
長くなったので、この続きは別稿で。
要はマクドナルドのなくした売り上げは蒸発して外食業界には残らなかったということだ。そして、マクドナルドが売り上げを回復して、事件前の水準にまで戻ると、何のことはない、ファーストフード他社は売り上げをどっと落とし、これまたマクドナルドの事故前の水準に逆戻りしただけ。これは見通しが甘いの一言で済ませられるものではない。
マクドナルドの売上回復の対策についてはまた別の機会に触れるとして、なぜファーストフード他社がマクドナルドの失策に対し、もっと有効な手を打てなかったのかということだ。その要因の一つが、ロードサイドマーケット(郊外型レストラン)の立地の変質にある。
マクドナルドは東京を中心とする首都圏において、駅前に必ずあると言ってよい店だ。マクドナルドがない駅というのは、よっぽど人が住んでいない場所だという意味にもなる。大きな駅では駅の両側、例えば西口と東口のように線路を隔ててどちらに行っても店がある。新宿や池袋、上野といったターミナル駅では5店、6店と複数店あることも多い。
駅前のマクドナルドは食事時以外でもいつでも混雑している立地であるのだが、軽食以外に喫茶という需要も取り込んでいるのがマクドナルドの強みなのだ。
ところが、マクドナルドの店舗数の半分は、そうした繁華街や駅前ではなくロードサイドにある。郊外型の一軒家店舗、お店で食べるイートインではなく持ち帰りテイクアウトに焦点を合わせた店だ。
郊外型店舗の特徴だが、
売り上げの5割近くが、テイクアウトとドライブスルー利用である。
だから、客席は少なくて良い。
だから、店は小ぶりになる。
ドライブスルーが機能すると実は駐車台数も減らせる。
当初マクドナルドが展開した郊外型の店は客席数が100席を超える大型展だった。
それが今では面積が半分程度の小型店が展開主力となっている。
郊外型の立地について、もう少し考えてみる。郊外型のファミリーレストランは、客席数が100席前後の店が多い。これは卓数で言うと25−30卓になる。
週末の忙しい、満席になるようなピーク時間では、一台の車でやってきた家族連れ客が利用する場合、一台の車(4人?)=1卓占有 → 卓数=駐車場と考えれば良い。(実際には何台分かの予備の台数が必要だ)
ところが、ファミリーレストランの平日利用は、一人で運転してきた主婦が3−4人集まりランチをする。1卓あたり4台占有であったり、営業車に乗っているサラリーマンが一人でランチを食べると一卓=一台=一人と卓効率の悪い状況も起こる。
平日では、満席・卓数=駐車台数の式が当てはまらなくなる。
この場合、卓数×1.5倍程度の駐車台数が必要となる。敷地面積の増大要因である。
平日の駐車場台数について別の計算をしてみる。客席の稼働率は概ね70%程度なので、稼働卓数は30卓×70%=21卓。そして1卓に2−3名がくるとすると、必要駐車台数は、21卓×2.5台=53台となる。これは郊外と言っても相当遠い郊外での話になる。車が一家に一台ではなく、一人に一台必要な地域の話だ。
ファミリーレストランの敷地が広くなる理由の一つがこれだ。田舎に行けば行くほど広さが必要になる。首都圏、東京近郊では主婦の自転車利用も意外と多いので、駐車場台数が少なくても良い立地・場所がある。首都圏で小型店舗実験などと言われるのは、こうした背景商圏が住宅地であり、徒歩・自転車来店が期待できる場所だ。日本全体でみると極めて例外的立地なのだが、人口密集地の首都圏では意外と「徒歩自転車商圏」が多い。
ところが、同じ郊外型立地でも売り上げの半分がテイクアウトになるマクドナルドのようなファーストフードでは、当然ながら客席数も半分(建築投資が下がる)、駐車場台数も半分(家賃も下がる、小さい敷地で店が出せる)と美味しいことずくめになる。
もともと大店法の影響と自動車の下駄化による交通動線が変わったことから、商業施設が郊外に移転した。そして、それに伴い郊外型という立地を開発したのがファミリーレストランであり、その効率化を進めた外食コンセプトがファーストフードということもできる。
テイクアウトの商売の美味しいところは、高単価が期待できることだ。ファミリーレストランでランチを食べるとして、一人が3人前、4人前と食べることは極めて珍しい。単価を上げるには、せいぜいドリンクやデザートといったメインではない商品を推奨するくらいしかない。ところがテイクアウトは、当たり前のことだが、3人前とか5人前とか買っていく客が相当な割合でいる。だからと言って一人前の値段が半分になるのかというと、それはないのが普通だ。5人前であれば、1人前の5倍の価格が支払われる。
だからテイクアウトの比率が高くなると、ファーストフードは実に効率の良い商売ができる。外食から物販への変容である。外食であるのに客席サービスをないがしろにしがちなのは、ここに原因がある。
もともと、駅前や繁華街の人通りの多いところで客席を高速回転させて売り上げ効率を上げるというのがファーストフードの原点だ。提供スピードを速くして、さっさと食べてさっさと帰ってもらう、これがビジネスの基本でありベースコンセプトだった。
ところが知名度が上がり、人通りのない郊外の幹線道路がテイクアウトを生み出す立地へと変化したこと。これがファーストフードを全国に押し拡げる重要な要因となった。
繁華街のように人が集まっていなくても商売になる。売り手であるファーストフード側にも、効率よく儲けることができる立地が増えたと色気を出す原因になった。
マクドナルドやケンタッキーキーフライドチキン、ミスタードーナツ、モスバーガー、吉野家、ほか弁なども含めたファーストフード、1000店越えチェーンの出店推進力が「郊外型店舗」だった。
しかし、1980年代後半から全国に広がった郊外型店舗の寿命は、実は20年ほどしかなかった。立地の陳腐化と一言で片付けられる現象ではある。ただ、それがわかったのは、1990年代、郊外進出最初期の郊外型店舗の急激な売上減衰が明らかになった頃である。
外食各社は、郊外型立地の陳腐化対策として、出店重点を当時規制緩和により大量出店が始まった大型ショッピングモールへの展開に切り替える。特にフードコートへの出店は投資の軽減効果もあり、急速に進む。しかし、このフードコート出店がブランド価値の低下を招く事態にもなった。
長くなったので、この続きは別稿で。
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